サバ缶&食べ力と料理研究家人生

食品と容器

「体によく、おいしくて簡単にできる」。

これは私の料理研究家人生の根底にある考え方です。そして、47年が経ちました。

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その間、制作した単行本が330冊、新聞掲載5,000回、雑誌執筆2,713本、講習5,676回、講演2,988回・・・。それらのレシピ、資料が50万点。すべてを整理して公立大学法人福岡女子大学に寄贈2016年、「村上洋子料理研究資料文庫」が開設。

2019年、創立100周年事業「国際フードスタディセンター」で「フード」をキーワードにした教育プログラムに活用される予定で、システム検索を構築。外部からアクセス可能となります。【①】①画像この文庫のバインダーの一冊目はアメリカ人の望月アンさんい、日本の家庭料理を教えたころから始まりました。英文のレシピの書き方に腐心する私に、アンさんが見せてくれた一冊の本『Encyclopedic Cook Book』(Culinary ArtsInstitute 刊)【②】はアメリカの家庭料理レシピを網羅したものでした。「料理を教えるからにはこれくらい徹底しなくては!」と心に誓い、今日に至っています。伝統とは、変化と創造によって形成された文化のことです。想像力を失って社会環境適応できなくなった伝統は、未来の世代に引き継ぐことはできません。ムラカミレシピも日々刻々と変わりながら作り続けてきました。

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現代科学の主流は物事を細部に分解して理解することです。心の動きを脳の神経細胞に、細胞を神経伝達物質や遺伝子に還元します。より特視的に解析する手法があるなら、より巨視的にまとめる視点も必要となります。少子高齢化の時代、食育や健康寿命の延伸に貢献する食は、おいしく、日常的なレシピでありたいと思います。

「アンさんの料理教室」はアンさんを中心に12人の外国人婦人の料理教室。料理を作るのは得意な私でも、それまで教えたことはありませんでした。辻嘉一氏の『味噌汁三百六十五日』【③】をお手本に、だしのとり方、生徒の夫出身県による味味噌の選別、具材の切り方火の通し方など、彼女たちでも美味しく作れる方法を考えては試作し、分量をきとめ、そのめもを基に再度作ってみて手直しをし、英語のレシピを作成し、印刷する。たちまち、一週間は過ぎ、次のレッスン日を迎えます。

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その後、夫の転勤で大分へ。そこでも慣れない土地にやってきた社宅の妻たちに、料理を教えました。そのころ応募したブルーダイヤモンド社開催「カルフォルニアアーモンドクッキング」グランプリを受賞。と同時に、夫の転勤で東京へ。その足で、ブルーダイヤモンド社の招待旅行でカルフォルニアへ。帰国後文化出版局「ミセス」でデビュー。料理のグラビアを飾る仕事は増えましたが、「ちゃんと食べてちゃんと生きる」という思いとは違う世界・・・。その後、夫の転勤で福岡県北九州市の社宅に移り、母校の福岡女子大学で非常勤講師を務め、栄養指導の教官の傍ら、凡庸性のある栄養計算システムの開発を。また、地元の西日本新聞で料理コラムをいただき、以来、35年続いています。実父や舅の世話が終わり、末息子が大学に進学したことを機に、社宅生活に終止符を打ち、1996年、福岡市にスタジオ件住居を建て、その後、東京西麻布にもスタジオを開設。東京と福岡を毎週行き来する「空飛ぶ料理研究家」のスタートです。

以前、東京に住んでいたころお世話になった講談社から声がかかり、1998年11月、その後のメディア活動の起点となる「毎日が美味しい工夫~すぐ作りたくなる感激のレシピだけを128点~」【④】が出版されました。

西日本新聞に連載していた「電子レンジで祥子流」も、メディアの目にとまるところとなり、「電子レンジと手早い工夫の時代です。」「電子レンジに夢中!」「電子レンジで朝ごはん」(以上、講談社刊)、「電子レンジで30秒酵母。こんなにカンタン手作りパン」(扶桑社刊)・・・と出版が続きました。

また、油控えめでも、一人分でもおいしくできる電子レンジの特性に着目し、栄養指導実習に活用した「糖尿病の予防・改善のためのおいしい食事」も日の目を見ることになり、「レンジで楽チン糖尿病レシピ」(新星出版)【⑤】、「糖尿病のための絶対美味しい献立」(ブックマン社刊)が出版されました。

2004年、朝日新聞紙上で全国学校給食協会の細井理事長と「子供の食べ力」について対談。

生活習慣病の低年齢化が進み、「食育」の大切さが見直されていた時期でした。「食べ力」は学校栄養士さんの間で流行語になり、「ごはん食べ力」「野菜食べ力」など、今も使われています。

2000年、「ママと子どもがハマるお料理手品」(講談社刊)【⑥】に始まり『村上祥子の食べ力えほん』(金の星社刊)出版。2000年より、東京と福岡で「三歳児のミニシェフクラブ」を開催。野菜や肉はよく切れるけど、手はけがをしにくい仕掛けのミニシェフナイフを使って、きゅうりもにんじんも大根もじゃが芋も自分で切って電子レンジで加熱。最後に鯛一匹をさばきます。

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小学校へ「早寝・早起き・朝ごはん」の出前授業にも出かけ、その時は電子レンジ、耐熱ボウル、ミニシェフナイフ、子ども用まな板も持参。目指すは米国のマグガバンレポートで、健康な食事とうたわれた「日本型食生活」。ご飯を炊いて野菜たっぷりのみそ汁、おかずを一品作ります。

2016年6月、今の日本にあった「食べ力」につちえ考えてみようと、西麻布スタジオ20年の歴史に幕を下ろしました。福岡に戻り、「年をとっても自分で作りたくなる!簡単でおいしい栄養満点の料理」の実習教室を始め、電子レンジ20台が使えるようにスタジオを改築【⑦】。下ごしらえや後片付けは私とスタッフで。受講生は一人分を各自で作るのです。

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「料理は楽しいが一番!介護食にもなる本格料理」をコンセプトとする実習教室で重宝しているのが、魚の缶詰。缶詰が非常食だった時代とは大違いです。

サバの水煮缶

サバ缶【⑧】をよく使いますが、DHAやEPAが豊富で、皮や骨ごと食べられる缶詰は栄養的にも優秀。魚は過熱するとパサつきがちですが、缶詰は中身がしっとり。かむ・のみ込むが難しくなった方にも食べやすく、早うま・簡単に調理できます。教室では、サバギョーザ、サバフライ、丹後のばらずしなどと活躍しています。

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何をどれだけ、どのように食べるかで、その人の健康状態は決まります。食事は日に3度のこと。難しいことを言っていては続きません。私は食べ物の力を信じる一人です。健康は幸せを実現する資本になります。これからも、過不足なく食べる世界のお手伝いをしていきたい、と思っています。

村上 祥子

(福岡女子大学客員教授、料理研究家、管理栄養士)

 

引用元

缶詰研究会

月刊誌「食品と容器」2016年VOL.57 NO.11