鉄は様々なところで活用されている素材です。今回は、その意外な活かされ方について、壷中天の上井克輔(うわいかつすけ)さんにお話をうかがいました。
壷中天は名古屋市新栄に店舗を構えるフランス料理店です。今回お話をうかがった上井克輔さんはそのオーナーシェフです。上井さんは20歳のときに友人と人材派遣の会社を起業し、そこで飲食店に興味をもち、22歳のころに、岐阜のフランス料理店「ラーモニー・ドゥ・ラ・ルミエール」山村幸比古氏に師事。その後、フランスやイタリアでの修行を経て、2001年に独立して壷中天を開店したそうです。
「2001年は、今の場所から少し離れたところでの開店でした。そこで9年ほど営業した後、ヤマザキマザックの会長さんに声をかけていただいて、現在の名古屋市新栄のマザックアートプラザに移ってきました。
日本人がフランス料理を好きかどうか分かりにくいですが、記念日に食べるものというイメージをもっているのではないでしょうか。人気を継続させるのは大変ですが、お客様を喜ばせる料理を模索しながらやっています。」(上井さん)
最近の食材環境についてうかがってみると。
「欲しい食材が国内外で入手しにくくなっています。フランスから輸入する食材も日本に入ってきにくくなっています。例えば、フォアグラがそうです。現在も一番良いものを輸入していますが、入ってくるものは満足できるレベルではありません。すぐれた食材の価格高騰は急ですし、入手も難しくなっています。」(上井さん)
食材環境に続いて、さっそく、鉄と食材のつながりについてうかがってみると。
「柑橘類は酸味を重視していますが、三重県でとれた紅甘夏は酸味がきれいに出ているのが特徴です。」(上井さん)
その紅甘夏は、日本製鉄㈱の鉄鋼スラグを原料とした肥料を活用している農園で作られているそうです。
「鉄を再利用していくという取り組みに共感して、柑橘類を購入しています。」(上井さん)
その他の食材については、どうでしょうか。
「海水温の上昇で、魚介類も仕入れにくくなっています。魚介類は価格も高くなって、数もとれないため、さらに仕入れにくくなる傾向にあります。しかも、歩留まりが悪いため、食材として使いにくいという側面もあります。そういうなかで、伊勢海老は、高知県の黒潮町から仕入れています。」(上井さん)
鉄と食材の関係で、なぜ伊勢海老が出てくるのかというと、黒潮町では、イセエビ礁の設置に力を入れていますが「鉄鋼スラグ」を利用したイセエビ礁は、藻類の付着性に優れ、また海域投入時に伊勢海老の好む隙間を形成しやすい形状であるため、伊勢海老にとって住みやすい環境になっているようです。
「おいしいものが安く食べられないのは危機だと思っています。以前は、1万円いただけば、1万5千円分の価値を出すことができました。しかし、現在は、おいしいものの価格がとんでもなく高くなってしまっています。」(上井さん)
そういう状況下で、壷中天の出店する愛知県では、漁業者がとれた魚介品を東京に卸してしまい、1級品は東京にいってしまうそうです。漁業者と地元レストランの関係構築ということも今後必要とされてくるのではないでしょうか。
「豊田市美術館でカフェレストラン『味遊是(ル・ミュゼ)』も展開しています。市の美術館ということで制約もありますが、常に危機感をもちながら、変化もしていきたいと思っています」(上井さん)
鉄が育んだ豊かな食材をつかったフランス料理。是非、堪能してみたいですね。
参照:壷中天
味遊是