【サバ缶ブームがもたらした「機能性缶詰」の市場性】
目次
矢澤 一良(早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 規範化学総合研究所ヘルスフード化学部門 部門長)
はじめに
COVID-19の影響は思いがけなく大きいものでした。
東京オリパラ2020の延期決定、緊急事態宣言発令など、これほど医療先進国としての欠点が指摘され、また大きな経済変動まで引き起こしたものは記憶にない。
今回の感染症問題の教訓は、一時的な流行と考えずいつでも起こりうることとの認識に基づいて「健康寿命延伸」を考える必要があることである。
対応策は、体内での予防策として「免疫力」「抵抗力」という言葉に集約され、今まで以上に食品の機能性と生活習慣がフォーカスされてきている。
感染症発症の抑制と数年後に迎える「団塊世代の後期高齢化」に対抗する方法は共に「機能性食品による予防医学」が基本概念である。
加齢現象(老化)に対応し、感染性疾患も非感染性疾患も共に体内からのフレイル予防策を講じることによって、健康寿命延伸が可能である。
本稿では「機能性缶詰」の視点から「食による予防医学」を再度考えてみたい。
1.予防医学と「知的食生活」
大切なことは、悪くなった病気を治す「医薬品による治療医学」よりも、病気になる時期を遅らせるせるため、そして病原菌に感染しても発症をしないまたは重症化しない「食品による予防医学」であり、知恵を使った予防医学的な「知的食生活」を必要とする。
すなわち、自分の健康は自分で守る”セルフメディケーション:Self-medication”の考え方が重要であると考える。
2.機能成分と「サバ缶」ブームの意義
食品の三次機能を有する機能性食品成分が6大栄養素のみでは必ずしもヒトの健康を維持できるものではない現代において、一般の食生活の中にその機能性を期待する。
「缶詰」にもこの機能性を求めることが出来る(「機能性缶詰」)。またその用途もタイミング栄養学観点からも多様性が期待できる。
食品素材に含まれる成分の機能から、一時機能(栄養になる、体を作る)、二次機能(五感に訴える官能機能)と摂取後に生理機能を発揮する機能である三次機能(機能性食品の基本)に分けられる。
機能性食品の種類をその予防・改善すべきターゲット別に分類してみると、脳機能の維持や改善、加齢(エイジング)全般のQOL改善、ストレスやうつ状態などのメンタル面の維持、過労・過激なスポーツなどにより生ずる活性酸素の消去、血流の改善や心筋機能の維持、骨粗しょう症や関節痛・痛風の予防、便秘改善や腸内細菌のバランス維持、白血球機能の維持や免疫力低下の抑制、アレルギー疾患や炎症の抑制、視力低下や眼球疲労の改善、体力維持、有害菌の排除(免疫力向上)、がん予防、睡眠や自律神経バランスの改善など、多岐にわたる機能を有する食品素材や機能性成分が存在する。
缶詰を改めて考えると、古くは保存食としての活用が主であったが、今回の「サバ缶」ブームには多くの意味あいがあって、単なる一過性のブームに終わらない思想が籠ったものである。
第1に、製造工程の著しい改善があり酸化防止や成分劣化を防ぐことが出来て、天然の機能性成分を失うことなく加工ができたという技術開発が原点にある。機能成分は一般的に変化しやすいものが多く、それらがより身近に食することが出来るようになったことである。サバの機能成分であるDHAやEPAの機能性はよく知られているが酸化に弱いという弱点があったが克服できた。血液サラサラ、中性脂肪低下そして脳機能の維持改善などの科学的に実証された効果が身近になって、予防医学の実践が容易になった。
第2に、美味しく食することが出来るようになっていることであり、「保存食だからまずくても仕方ない」ことが覆されたことは大きな意義を持つ。多岐にわたる料理に利用できる美味しさを保持できた。最近の研究においては、「美味しい」という味覚に限らず、「香りが良い」「見た目に美味しそう」「楽しい」という感覚が脳を介して体調改善(例示すれば免疫活性化、血行促進など)につながることも明らかにされてきた(5感五感栄養学と呼ぶ)。
第3に、時代の社会的要請である「時短」の概念に沿う形で食生活の一助になってきている。時間栄養学やタイミング栄養学の研究が進展してきているが、時間をかけずに美味しくしかも必要な(欲しい)栄養が,手軽にいつでも食することが出来ることは高く評価できる。
下記に解説する「機能性表示食品」としても「サバ缶」は登録されており、DHA を関与成分として「記憶をサポートする」という表示を記載して販売されている。
3.予防医学の見地から見た惣菜
最近予防医学の視点から新しい試みとして「機能性惣菜」の研究開発が動いていうるので紹介をする。
惣菜は多くの人々が日常的に口にし、幅広い層から愛されている食であるが、その効果は、エネルギーや糖分の補給、食事だけではまかないきれない栄養素の補給など、栄養学的な身体面への効果のみならず、リラックスや癒やし効果、時にはコミュニケーション・ツールにもなるなど、精神面への効果なども期待し得るものである。これに加えて、現代の健康志向の高まりと共に、例えば、エネルギー摂取をなるべく低く抑えたり、特定の栄養素の含有量を強化するなどして栄養素を調節し、第三次機能にみられるような、体の調節を整えることにも貢献しようとする惣菜も日常的に利用できるようになってきた。このような、食品としての第三次機能をも併せもつ惣菜を「機能性惣菜」として、さらに人々の健康を美味しく支援しようとする研究・開発が進められている。
上述のように、最近再評価をされているサバ缶などの魚介類缶詰などは、以前は緊急時の保存食との起源はあるが、現在はそのまま食材の一つとして美味しくかつ機能性を保持したものが出てきており、これらは広い意味での惣菜の一つと考えても良い。
4.機能性食品の多様性の将来展望
機能性食品の歴史としては「特定保健用食品」が先行して既に1,300件を超す製品が認定されている(実働は30%程度)。2015年から開始された「機能性表示食品」は2,500件を超す登録がされている(実働は80%以上)。その市場規模は2,000億円に届くようになり、毎年10%前後の増加が予測できる。共に行政が関わる機能性食品であり、製品にはその健康機能性を表示できるものである。一方その他の一般食品には健康機能性を製品に表示することは許されていない。
「機能性缶詰」や「機能性惣菜」の基本的な利用目的は、特定保健用食品や機能性表示食品にみられるような “ 健康機能 ” に対する期待とほぼ同様と考えられる。ただ、「機能性缶詰 」・「機能性惣菜」を利用する目的として、利用者側の意識の中に少違いがあるとすれば、「美味しい」、「楽しい」、「安らぐ」、「癒される」、「簡単」といった、医薬品やサプリメントには無い期待も考えられ、これらの要素が「機能性缶詰」「機能性惣菜」としては、欠かせない要素であると思われる。
機能成分の研究開発が社会的にさらに要請されており、選択肢のより広い「食による予防医学」の実践による、未病の維持・疾病予防により医療費の抑制になり、さらに関連産業の振興にもつながることが予測できる。
「1日3食バランス良く」を基本として、上手に「機能性缶詰」「機能性惣菜」を利用することにより、健康維持増進(未病維持)や疾病発症予防のスローエイジング(予防医学)も可能となる。
※参考資料
「ヘルスフード科学概論」矢澤一良編著,2003年,成山堂書店
「ヘルスフード科学講座」矢澤一良著,2007年,食品化学新聞社
引用元
缶詰技術研究会
2020年8vol.61より掲載