鉄は様々なところで活用されている素材です。今回は、「鉄鋼スラグ(以下スラグ)」が意外な形で我々の身近なところで大活躍している様子について、かみはら山水農園代表理事の河原一馬さんと理事の今井登志雄さんにお話をうかがいました。
かみはら山水農園は岐阜県下呂市にある農業法人です。「地域の田んぼを守る」という信念のもとに、お米を栽培されています。
栽培されたお米は食味が素晴らしく、米・食味分析鑑定コンクール:国際大会でも金賞を獲得しています。さらにこの受賞から、H28年・H31年・R3年には、ギネス記録認定の「世界最高価格米」の原料米として選出されています。
お米を栽培する際に大事なのが水と土です。山水の源流近くの田んぼ。その土づくりに貢献しているのが「鉄」です。
「コスト・販売価格の面で課題があったので、県の農業普及指導員に相談したところ、「農力アップ」という土壌改良剤を紹介してくれました」(かみはら山水農園さん)
この「農力アップ」は鉄を活用することによって作られた土壌改良剤です。製鉄工程の中で、鉄鉱石から鋼を精錬(鉄の純度を高めるために不純物を分離)する時に「スラグ」という副産物ができます。この「スラグ」には、鉄分はもちろん、ケイ素、リン、マンガン、ホウ素等、肥料に必要な成分が多く含まれています。これを粉砕し造粒したものが「農力アップ」なのです。原料となる「スラグ」は国内の高炉系鉄鋼メーカーから供給されていて、東海・北陸・関東・甲信越を中心に20年以上の歴史がある商品とのこと。
「金賞を受賞したことで、肥料の公開を要請されたため、受賞した水田で使用していたものを公開しました。当初は、農協の注文書の中に農力アップは掲載されていませんでしたが、その後、リストに入ることにもなって、現在は、飛騨地域でも多くの農家で採用されています」(かみはら山水農園さん)
「農力アップ」の使用は岐阜県内全域に広がっており、その成果もあってか、岐阜県で生産されるお米の評価は高く、米・食味分析鑑定コンクール国際大会では米どころの新潟県や群馬県などに劣らない数の金賞受賞者が岐阜県からでています。
「かみはら山水農園のお米は、東洋ライスが販売している世界最高米の原料米にも選ばれています」(かみはら山水農園さん)
かみはら山水農園は主にコシヒカリを栽培していますが、検査機関の検査結果によると、とれたお米は、食味値と味度値で評価されるお米の味のうち、過去は味度値のレベルが高く食味値にやや課題があったが、現在は食味値が安定的に高レベルにあるとのこと。これらのレベルを維持するために、秋の稲刈りの時期を調整するなど細かな工夫を重ねてきたそうです。その成果もあって、何度も国際大会で賞を受賞しており、世界最高米の原料米にも選ばれているのです。
「「農力アップ」は価格も他のものより半分程度と安く、導入しやすいのが特徴です。水溶性が高いので直ぐに効果があらわれますし、継続して使っていくことで数値も良くなっていきました」(かみはら山水農園さん)
こうお話をうかがっても、鉄鋼精錬過程でできるスラグを肥料にするというのは理想的な環境循環と思われます。ただ、土壌などに悪い影響はないかと疑問に思ってしまいます。そのあたりをうかがってみると。
「これまでに「農力アップ」で困ったことはありません。施肥を毎年行わずに途中で使用を休むという使い方をされる方もおられるようですが、私達はこれまで施肥を休んだことはなく、むしろ使い続けた方が良い結果になるようです」(かみはら山水農園さん)
おいしいお米づくりに貢献している「農力アップ」ですが、継続して使用するのが効果的のようです。これからも土壌改良のために使用されていくようですが、これから、かみはら山水農園さんはどのような取り組みを行っていくのでしょうか。
「「地域の田んぼを守る」という目標を掲げて、これまでも取り組みを進めてきました。今後も地域の環境を守ることにつながる取り組みを進めていきたいと思います。お米づくりについては、販売単価を上げることができるように、おいしいお米を作ることを継続していきたいと思っています」(かみはら山水農園さん)
かみはら山水農園さんでとれたお米はオンラインで購入可能です。なかでも「金の粒」が人気とのこと。是非、世界一おいしいとされるお米を味わってみたいものですね。